2025年10月10日放送のNHK「ドキュメント72時間」では、鹿児島県北部・伊佐市にある「菱刈鉱山(ひしかりこうざん)」が登場します。
日本で唯一、商業規模で金の採掘を続ける“奇跡の金山”。
地下深く広がる坑道で働く人々の姿や、自然との共存を目指す企業努力が描かれる予定です。
この記事では、菱刈鉱山の歴史・構造・環境保全の取り組み・労働環境の変化などを詳しくまとめました。
「菱刈鉱山」について


基本情報
菱刈鉱山(ひしかりこうざん)
- 所在地:鹿児島県伊佐市菱刈前目
- 運営:住友金属鉱山株式会社
- 操業開始:1985年
- 年間産出量:約6トン(推定
- 特徴:金品位 約20g/トン・浅熱水性鉱脈型鉱床
- 理念:「クリーンで明るい地下工場」
日本唯一の商業金鉱山「菱刈鉱山」とは
鹿児島県伊佐市の山あいに位置する「菱刈鉱山」は、住友金属鉱山株式会社が運営する国内最大規模の金鉱山です。
1985年の出鉱開始以来、40年以上にわたって安定した金産出を続けており、今では日本で唯一の商業金鉱山として国内の金資源を支えています。
世界でも稀な高品位金鉱


「菱刈鉱山」の特徴は、何といってもその金の品位(含有量)です。
鉱石1トンあたりに含まれる金の平均量は約20グラム。
世界の主要金鉱山の平均品位(3〜5グラム)と比較すると、4〜6倍もの高品位を誇ります。
そのため、採掘効率が高く、金属鉱山として非常に安定した経営が可能となっています。
菱刈鉱山の地質と成り立ち ― “地球が創った100万年前の奇跡”

「菱刈鉱山」の鉱床は「浅熱水性鉱脈型金銀鉱床」と呼ばれています。
この鉱床は、地球の内部で起こるプレートテクトニクス(地殻変動)によって形成されたものです。
太平洋プレートが日本列島の下に沈み込む過程でマグマが発生し、そのマグマが地殻の割れ目を通って上昇する際、地下水やマグマ水(熱水)が供給され、熱水に溶けた金・銀などの物質が冷却されて鉱脈となります。
こうして生まれたのが、約100万年前に誕生した菱刈の金鉱床。
地質学的には非常に“若い”鉱床であり、現在でも65℃の温泉水を伴うことが特徴です。
まさに“地球がつくった天然の奇跡”と言える存在です。
「クリーンで明るい地下工場」― 環境保全と地域との共存共栄


運営母体の住友金属鉱山株式会社(SMM)は、「クリーンで明るい地下工場」を理念に掲げ、「菱刈鉱山」の操業を続けています。
同社は江戸時代から続く住友グループの源流企業のひとつで、かつての別子銅山(愛媛県)での成功を基礎に、現在は世界有数の非鉄金属メーカーへと成長。
ニッケル・銅・金・コバルトなどの資源事業や電子材料事業を世界展開しています。
「菱刈鉱山」においては、地域社会と共に歩む姿勢を大切にしており、地元雇用の創出や環境保全活動にも積極的に取り組んでいます。
- 坑内排水の徹底的な水質管理
- 騒音・振動対策の強化
- 植生保全と森林再生活動
- 廃棄岩・廃棄物の再資源化
- 地元学校との環境教育連携
「金を掘る」ことだけを目的にせず、“地域と共に生きる企業”としての信頼を築いているのがSMMの特徴です。
坑内の世界 ― 最新技術で支えられる「現代の金山」


「菱刈鉱山」の坑道は総延長100km以上。
まるで地下都市のように広がる空間では、かつてのような手作業ではなく、
機械化・デジタル化された近代的な採掘が行われています。
現在の採掘プロセス


- 穿孔(ドリルジャンボで岩盤に穴を開ける)
- 発破(爆薬を装填して岩を崩す)
- 積込・運搬(重機で鉱石を運び出す)
- 選鉱・処理(不要岩を取り除き金鉱石を抽出)
最新技術と安全管理


- 遠隔監視システムによる坑内環境のモニタリング
- 粉塵・ガス検知装置による安全確保
- Wi-Fi通信によるリアルタイム作業報告
- 高性能換気システムによる温度・湿度管理
坑内は照明や空調も整備され、
文字通り「明るく清潔な地下工場」として機能しています。
労働環境の変化 ― 過酷から安全へ
かつて日本各地に存在した鉱山では、暗く湿った坑道、粉塵、爆薬、手作業の運搬など、過酷な労働環境が当たり前でした。
しかし、「菱刈鉱山」では開山当初から住友金属鉱山が培った安全管理ノウハウが導入され、近代的な労働環境と教育制度が整備されています。
- 機械化による肉体負担の軽減
- 定期的な安全教育・健康診断の実施
- 作業員の高齢化対策としてチーム制を導入
- 地元高校・大学との連携で若手育成も推進
過去の「危険な鉱山労働」のイメージを払拭し、今では“誇りを持って働ける現場”として注目されています。
金と人と地域をつなぐ「未来の鉱山」へ


金という限りある資源を採掘しながらも、人・自然・地域の共生を実現すること。
それが、「菱刈鉱山」と住友金属鉱山の使命です。
ドキュメント72時間では、そんな“地下で働く人々のリアルな72時間”が描かれました。
資源を掘りながら地域と共に歩む姿は、まさに「未来の鉱山」とも言えるでしょう。
まとめ


鹿児島・菱刈鉱山は、世界でも稀な高品位金鉱山でありながら、最新技術と環境保全を両立させた“未来型鉱山”です。
地下1000メートルの闇で輝くのは、金だけではなく、誇りを持って働く人々の光でもあります。
令和の今も「金を掘り続ける」理由を、「ドキュメント72時間」でも知ることができました。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。